析出硬化系ステンレス鋼(SUS631, 632J1, TOKKIN350)


ダイヤフラム、リードバルブ、バンドソー、マスクフレームスプリング、各種ばね、ベローズ

板厚: 0.010~2.0mm 幅 : 3~300mm
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日本
製品概要
冷間圧延後析出硬化処理により、マルテンサイトに微細なAlを含む金屬間化合物を生じさせることにより非常に高い硬度の得られるステンレスです。(オーステナイト系をステンレスと比べ、耐食性がやや劣ります。)
※析出硬化とは、固溶化熱処理(溶體化熱処理)の後、時効硬化(析出硬化)を人工的に行なうことを言い、ステンレスの600番臺(SUS631,SUS632J1,TOKKIN??350など)、マルエージング鋼などが代表的です。
※耐食性:オーステナイト系>析出硬化系>フェライト系
この鋼種は、『成形時にはオーステナイト系ステンレスのように成形し易く、使用時にはマルテンサイト系ステンレスのように高強度である』というコンセプトの元に開発された材料です。
特徴
■SUS631(17-7PH)とは
18-8ステンレスの優れた性能を保持しながら、熱処理によって硬度を高めることができる析出硬化型の最も代表的な鋼種です。固溶化熱処理狀態の最も軟らかいものから強圧延仕上げの硬いものまで、加工、用途に合わせて種々の熱処理を施すことによって、高炭素マルテンサイト系の焼入材に次ぐ強度のものを得ることができます。固溶化熱処理狀態では非磁性ですが、析出硬化処理後はかなり強い磁性を示すようになります。
■SUS632J1(15-7PH)とは
SUS631では固溶化熱処理狀態では軟らかく、種々の加工ができる反面これを硬化させる中間硬化処理が必要です。SUS632J1は固溶化熱処理をおこなっても常溫では硬くなっておりその後の熱処理としては1回の析出硬化処理を施すだけでごく簡単です。この硬くなった固溶化熱処理材は、炭素量が低く靭性もあるため軽度の加工は可能です。仕上がり狀態として固溶化熱処理仕上げと圧延仕上げがあり、圧延仕上げの方が大きい強度が得られますが、SUS631の強度には及びません。この鋼種は全ての狀態で強い磁性を示します。
■TOKKIN??350とは
TOKKIN? 350はCr-Ni-Mo系のステンレス鋼です。溶體化処理狀態や焼鈍狀態では優れた加工性、熱処理により高い強度を誇り、耐力、繰り返し疲労強度に優れております。
? SUS631、632J1 との違いについてはこちらまで。
同じ析出硬化系ステンレスでもSUS631とSUS632J1は何が違うの?
SUS631とSUS632J1の主な違いは以下の通りです。
(1)冷間圧延率による硬さ上昇が異なります。
下図(左)「冷間圧延と機械的性質」に圧延率-硬さ 及び 析出硬化後の硬さを示しますが、
SUS631 C(破線)は圧延率の上昇に伴い、硬さも大きく上昇致しますが、
SUS632J1 C(実線)につきましては圧延率が上がっても、硬さはSUS631 C程の上昇は見られません。
SUS632J1の方が強い冷間加工を行わなくてもある程度の強度が得られ、かつ冷間加工による硬さ上昇が小さいので、方向性を気にされる方や成型性?打ち抜き加工性をご要望の方にはSUS632J1をお勧めいたします。
(2)析出硬化熱処理(H処理)による硬さ上昇量が異なります。
SUS631のC材(冷間圧延材)にH処理(析出硬化熱処理)を施した場合、最大(圧延率が高い程、H処理後の硬さ上昇量が大きくなります)でもHV80~90程の上昇量ですが、SUS632J1では圧延率に関わらずHV150以上も上昇します。
但し、SUS631につきましては、A材(HV200以下の軟質材)にTH1050処理、RH950処理を施すことで硬さを大きく上げることが可能ですので、複雑な加工形狀をご要望の場合はSUS631のA材をお勧めいたします。
しかしながら、A材の場合、H処理の前にマルテンサイト化処理(T処理、R処理)をしなければなりませんので、熱処理條件にご注意ください。
※SUS631の熱処理條件につきましては、『熱処理』のタブ內をご覧ください。
規格
JIS及び 弊社記號 |
國際規格 ISO 683/13 |
アメリカ UNS |
アメリカ AISI ASTM |
イギリス BS 1449/2 |
ドイツ DIN,VDEh 17441 |
フランス NF A35-573 |
ロシア ΓOCT 5632 |
歐州規格 EN 10088-1 |
SUS631 (17-7PH) |
2(ISO 638/15) |
S17700
|
631 |
-
|
X7CrNiAl177
|
Z9CNA17-07
|
09X17H7IO |
X7CrNiAl17-7
|
SUS632J1 (15-7PH) |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
TOKKIN??350 |
|
S35000 |
633 |
- |
- |
- |
- |
- |
化學成分
種類 |
鋼種名 |
化學成分(%) |
||||||||
C |
Si |
Mn |
P |
S |
Cr |
Ni |
Mo |
その他 |
||
析出硬化系
|
SUS631 (17-7PH) |
≦0.09 |
≦1.00 |
≦1.00 |
≦0.040 |
≦0.030 |
16.00~ 18.00 |
6.50~ 7.75 |
- |
Al 0.75~ 1.50 |
SUS632J1 (15-7PH) |
≦0.09 |
1.00~ 2.00 |
≦1.00 |
≦0.040 |
≦0.030 |
13.50~ 15.50 |
6.50~ 7.75 |
- |
Cu 0.40~ 1.00 |
|
Ti 0.20~ 0.65 |
||||||||||
TOKKIN??350 |
0.07~0.11 |
≦0.50 |
0.50~1.25 |
≦0.040 |
≦0.030 |
16.00~17.00 |
4.00~5.00 |
2.50~3.25 |
N 0.07~0.13
Fe Bal |
特金のメリット
◎高い品質と信頼性をお屆けします
一般材では出來ない厳しい板厚公差や強度の均一性により、ばね用途として強度の安定性が得られます。
また、成分調整、製造履歴の厳重管理による高清浄化や組織調整により、優れた耐疲労性、高信頼性を得ることが出來ます。
◎極薄箔も製造いたします
弊社では板厚0.010~0.099mmの極薄箔の製造が可能です。
◎小ロットにも柔軟に対応いたします
弊社では標準300㎏で製造可能です。
またご相談頂ければさらに小ロットも検討可能です。
(対応可否はその時々にもよりますので、都度、ご確認下さい。)
◎ご希望の硬さに調整いたします
オーダーメイドで製造を行なっておりますので、希望の硬さに調節することが可能です。
一般的な3/4H材はもちろんのこと、それ以外の硬度調整もできます。ご相談下さい。
◎表面肌をお選び頂けます
圧延ロールを変更することにより、ブライト仕上(光沢あり) か ダル仕上(梨地模様)をお選び頂けます。
また、ご指定によりヘアライン研磨(外注)も対応致します。
物理的性質
|
密度 g/cm3 |
比熱 J(kg?K) |
電気抵抗 μΩ?cm |
ヤング率 N/mm2 |
熱膨張係數 10-6/K |
熱伝導率 W/(m?K) |
SUS631 |
7.81 |
420 |
79 |
200,000 |
15.3 |
16.3 |
SUS632J1 |
7.74 |
502 |
100 |
196,000 |
10.9 |
15.9(100℃) |
TOKKIN??350 (焼鈍狀態) |
7.92 |
461 |
79 |
- |
15.2 |
15.4 |
機械的性質
SUS631
|
|
素材狀態 |
析出硬化処理後 |
|||||||
素材 |
區分 |
硬さ HV |
引張強さ N/m㎡ |
伸び % |
V曲げ 0.5t |
W曲げ 1.0t |
硬さ HV |
引張強さ N/m㎡ |
耐力 N/m㎡ |
バネ限界値 N/m㎡ |
A材
|
TH1050 |
≦200 |
≦1030 |
20≦ |
R90° |
R90° |
345≦ |
1140≦ |
960≦ |
--- |
RH950 |
392≦ |
1230≦ |
1030≦ |
--- |
||||||
C材 |
1/2H |
350≦ |
1080≦ |
5≦ |
1.5t R90° |
2.0t R90° |
380≦ |
1230≦ |
880≦ |
635≦ |
3/4H |
400≦ |
1180≦ |
--- |
--- |
--- |
450≦ |
1420≦ |
1080≦ |
835≦ |
|
H |
450≦ |
1420≦ |
--- |
--- |
--- |
530≦ |
1720≦ |
1320≦ |
980≦ |
|
EH |
480≦ |
1620≦ |
--- |
---- |
--- |
560≦ |
1900≦ |
1570≦ |
--- |
※EH仕上げはJIS規格ではありません。
硬さは仕上げにかかわらず、ご希望の硬さで製造可能です。(規格レンジは40HV以上必要です)
SUS632J1
? |
?素材狀態 |
析出硬化処理後 |
||||
區分 |
硬さ HV |
引張強さ N/mm2 |
耐力 N/mm2 |
硬さ HV |
引張強さ N/mm2 |
バネ限界値 N/mm2 |
1/2H |
≦350 |
≦1200 |
1250≦ |
400≦ |
1300≦ |
1200≦ |
3/4H |
≦420 |
≦1450 |
1500≦ |
480≦ |
1550≦ |
1400≦ |
TOKKIN??350
BA狀態 |
SCT850狀態 |
||||||
硬さ HV |
引張強さ N/mm2 |
耐力 N/mm2 |
伸び % |
硬さ HV |
引張強さ N/mm2 |
耐力 N/mm2 |
伸び % |
≦266 |
≦1393 |
≦641 |
9≦ |
412~484 |
1276≦ |
1034≦ |
4≦ |
? TOKKIN??350のより詳細な機械的性質はこちらまで。
機械的性質のグラフ
SUS631
SUS632J1
析出硬化処理
析出硬化とは???
固溶化熱処理(溶態化熱処理)の後、時効硬化(析出硬化)を人工的に行うことをいい、ステンレスの600番臺(SUS631, SUS632J2 など)、マルエージング鋼などが代表的です。
SUS631
上の、TH、RH処理は2種類の熱処理を行うことで硬化させることで、最初のT処理、R処理は準安定オーステナイト相のA材を鋼の焼入のようにマルテンサイト化する一次硬化熱処理であり、2番目のH処理は、この鋼種の最大特長である析出硬化を起こさせて完全に硬化させるものです。下のCH処理は熱処理によるマルテンサイト化処理の代わり冷間加工で硬化させるもので、弊社では冷間圧延で適當な硬さに仕上げてご提供しています。(C材)
従ってご使用上は、あと1回の析出硬化熱処理を施すだけで結構です。
※TH、RH、CHの末尾の數字は析出硬化処理溫度を華氏で表して処理の區分をしています。
※熱処理についてはこちらも參考にしてください。
【備考】?
※固溶化狀態(A材)でH処理のみ行なっても析出硬化することはできません。
※SUS631とSUS632J1では熱処理條件が異なります。
※誠に申し訳ございませんが、弊社ではTH, RHの硬化処理を行なう設備を持ち合わせていないため、これらの熱処理につきましてはお客様にて行なっていただいております。
SUS632J1
SUS632J1の熱処理條件は以下となります。
◆固溶化熱処理條件: 1,020~1,060℃急冷
◆析出硬化処理條件: 480℃1時間保持
ご使用上の注意事項
(1)熱処理溫度がかなり高いため、できるだけ光輝雰囲気(真空、H2、N2、AXガス等)中で処理されることをおすすめします。やむを得ず著色が生じた場合、H処理のような低溫スケールは①10%塩酸→30%硝酸、または②15%硝酸+2%弗酸(硝弗酸)で除去できます。
T処理、R処理のような高溫スケールは、①苛性ソーダ+30%硝酸ソーダ溶融塩→硝弗酸、または②10%苛性ソーダ+3%過マンガン酸カリ煮沸溶液→硝弗酸で除去できます。この他、機械的な研磨やブラスト、ピーニング等で除去することも行なわれています。
(2)R処理の低溫への冷卻(サブゼロ処理)は、簡単には耐熱容器にアルコールまたはアセトンとドライアイスを混合して入れると-73℃近辺の適溫が得られます。連続的に多量処理される場合は冷凍機が使用されます。
磁性
オーステナイト組織は非磁性ですが、マルテンサイト組織は(フェライト組織ほどではありませんが)強磁性となるため固溶化狀態では弱磁性であったSUS631は析出硬化処理後強い磁性を帯びます。
ほとんどマルテンサイト化処理時に磁気をおびるのでH処理時での変化はあまりありません。
析出硬化型ステンレスの中でも耐食性、耐酸化特性や溶接性に優れた材料になります。
世界最高の強度-延性バランス?
優れた加工性と高強度の両立により高い信頼性を実現
(1)高強度と高延性を両立(代表値:耐力1500MPa以上&伸び20%以上)
(2)機械的異方性が小さい(設計自由度が高い)
(3)加工後の熱処理不要(寸法精度が安定)
SUS631やSUS632J1などの析出硬化系ステンレスの代替として最適です。
※日本金屬學會 第41回 ”技術開発賞”受賞材料



